きみの声がきこえない
心の声がきこえることは幸せでもないし、
かといって不幸なことでもなかった。
逆にこうして声がきこえないことも。
電話が鳴った。
秀くんが立ち上がって、電話をとった。
間が開くので、どうしたかと思ったら、
「……麗香?」
秀くんが彼女の名前を呼んだ。
そして、何だか泣きそうな、それでも何だか嬉しそうな、
何ともいえない顔で、振り返ってあたしを見た。
何もきこえない。
でも、
あたしにはきこえた気がしたんだよ。
あたしは立ち上がって笑って、
秀くんに深く頭を下げて、家を出た。