ご主人様に首ったけ!
それまで黙っていた零さんも、ニッコリ笑いながら言ってきた。

それは喜んでいいのか、悲しむべきなのか……。


「嫌?」


私がしかめっ面のままでいると、提案そのものを嫌がっていると思ったみたいで、綺ちゃんは悲しそうに聞いてくる。


「嫌って言うか……」


正直、霧様と一緒にいる時間が増えるのはすごく嬉しい。

でも、それが家を出てまでってことになるとどうしたらいいのか分からなくなってしまう。


私が葛藤していると……。


「大丈夫だよ、露ちゃん。
家は隣のままだし、なにかあったらすぐに帰れる。ただ寝泊りの場所が代わると考えてくれればいいよ。
それに、陸くんも綺ちゃんもこの家で働いてくれているんだからすぐに会えるでしょう?」

「そうそう。
もちろん、ママたちは露ちゃんがおうちを出て行ってしまうのは淋しいけど、露ちゃんに大好きな霧様と一緒の時間を作ってあげたいっていう計らいなのよ」


なーんて上手い事を言って丸め込もうとしている。


やっぱりいくら隣とはいえ、今まで14年間慣れ親しんだ家を出てしまうというのはすごく淋しくてありがたい誘いなのに、どうしても迷ってしまう。


すると零さんが……。


「きっと、霧も喜ぶと思うなぁ」

「え……?」


遠くを見つめるような仕草で、独り言のように小さく呟かれた。

その声に反応して、聞き返すと零さんはにっこり笑って続きを話してくれた。


「いや、あんなにメイドさんと一緒に居たがる霧は本当に初めてだから。
きっと一緒に暮らすって言ったら、露ちゃんのこと手放さないんじゃないかな?」


霧様とたくさん一緒にいたい。

でも、やっぱり自分の家から離れたくないっていう思いがあったから断ろうと思ったんだけど、『霧様』という名前を出されただけでその思いは揺らいでいってしまう。


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