ご主人様に首ったけ!
その質問には答えず、ただ黙って神くんをにらみつける。


「ははっ、敵意むき出しって感じだね。
でも、なんでそんなに嫌がるかなぁ?」

「?」

「だって俺と付き合ってって言うならまだしも、露が付き合うのは俺じゃなくてなにも事情を知らない聖なんだよ?
兄である俺が言うのもなんだけど、聖はいいやつだよ」


聖ちゃんがいい人だなんて、分かりすぎるほど分かってる。

でも、違う。
彼は、霧様じゃない。


「……っ」


神くんを睨み付けたけど、だんだんその視界がぼやけてくる。


やだ……。
絶対に神くんの前では泣かないっ。

泣きたくなんか、ないんだから……っ。


「ま、いいや。
じゃあ、はい、約束」


涙目で睨み付ける私を見て神くんがどう思ったのかは分からない。

でも神くんは口端を少しだけ上げて、私の前に小指を差し出してきた。


その瞬間、霧様との約束を思い出す。


――“露にだけは連絡を忘れない”


そう言って笑ってくれた霧様。

霧様との約束はあんなにも、温かいものだったのに……。


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