ご主人様に首ったけ!
荷物をまとめ終えた時、ふと壁にかかっていたメイド服に目が留まった。

霧様が私のために用意してくれたメイド服。
私がここに仕えてからずっと着続けていた大事な大事な宝物……。


霧様に返そうと思った。

このまま置いていこうかと思った。

これがそばにあったら霧様を思い出して、恋焦がれてしまうから……。


――でも。

これだけ……。
この服一つだけ、霧様との思い出を持ち帰ってもよろしいですか……?


「そうだ、書置き……」


霧様には黙って出て行くつもり。

だから、せめて最後に手紙を残していきたい……。

紙とペンを取り出し、それまでの想いをこめて丁寧に書き綴った。


「これでよし、と……」


手紙を綺麗に折りたたみ、テーブルの上に置くと鞄を持って部屋を出た。

霧様の部屋の前に立ち、扉に寄り添うようにもたれかかる。


「霧様……」


そっと大好きな彼の名前を呼び、扉から離れると、


「さよなら……」


と、小さく呟いてその場から立ち去った。

逃げるように霧様の部屋から離れると、そのまま零さんの部屋へと向かった。


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