ご主人様に首ったけ!
そうだよ、牧。

私は今でも霧様が好き。

こんなことにならなければ、今も霧様と一緒に……。


神くんに会わなければ――。


「私ね、東條の家も出たんだ。
だからもう、霧様のことは話さないで……」


これ以上話を続けたくなくて、それだけ言うと逃げるように無理やり話を打ち切ってしまった。

2人はまだ何か言いたそうにしていたけど、それ以上何かを言う事はなく、そのまま自分の席へと戻っていった。


うわさというのは、あっという間に広まるもの。

牧たちやクラスのみんなは、なにも聞かずにいてくれた。


――でも、中にはそんな甘い人だけではないんだ。


『ほら、あの子でしょ?
東條くんもてあそんだの』

『よりにもよって、東條さんと二股かけるなんて信じらんない』


廊下を歩くたびに、そんな声が聞こえてくる。


『東條先輩かわいそー!』

『ほんと、サイテーだよね』


人とすれ違うたびに、そう囁かれる。


その度に泣きそうで、くじけそうで、負けそうで……。


でもここで負けたら自分にも、こうなることになった元凶の神くんにも負けちゃうような気がして、絶対に周囲の人たちに弱いところを見せたくなかった。


そんな中で、聖ちゃんはその噂を知ってか知らずか、休み時間のたびに私の教室に来てくれて笑わしてくれた。


霧様を忘れる事は……まだ無理そうだけど、そんなさり気ない聖ちゃんの優しさに私は救われていたんだ。



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