ご主人様に首ったけ!
「霧様……」


それを聞いた瞬間、心臓が大きく跳ねた。

うそ……。

まさか、本当に会っちゃうなんて――。


今まではわざと登校時間もずらして、なるべく会わないようにしていたのに……。


会いたかったけど、今は会いたくなかったよ……。


「久しぶり」

「はい……」


霧様は前と変わらない笑顔で話しかけてきてくれる。

でも私のうぬぼれかも知れないけど、その表情はどこか暗く見えてその悲痛さに思わず霧様から目をそらしてしまう。


「……デート?」

「……はい」


一瞬だけ聖ちゃんを見やり、再び私に視線を戻した霧様に問われる。


本当は答えたくなかったけど、聖ちゃんの手前答えないわけにはいかず小さく頷く。


「そう。
引き止めて悪かったね」

「いえ……」

「じゃあね、露……」


はかなげな笑みを浮かべられ、私の心は大きく跳ねる。


そして、霧様は小さく手を振ると私たちの前から姿を消してしまった。


私は聖ちゃんが一緒である事も忘れて、じっと霧様の去って行った方を見つめ続け、その後姿が私の心を締め付けた。


だめ……!

私は今、聖ちゃんと付き合ってるんだから。


霧様のことは忘れないと聖ちゃんに失礼なんだから――。

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