ご主人様に首ったけ!
聖ちゃんは小さくそれだけ呟くと、先に立ち上がって歩き始めてしまった。


今までは、聖ちゃんは私を置いて先に行ってしまうことはなかった。

いつも歩調を合わせてくれて、いつも隣を歩いていてくれた。


なのに、今は聖ちゃんの背中しか見えない。


でも、そうしてしまったのは自分。

聖ちゃんを傷つけてしまったのも――……。


それでも……。

私が立ち上がり、小走りで聖ちゃんの後ろまで行くと、やっぱり聖ちゃんは私と歩調を合わせてくれて――……。

会話をすることこそなかったけど、聖ちゃんの優しさを感じてさらに切なさが増す。


なんでかなぁ?

こんなに優しいのに……。


なんで、聖ちゃんを好きになれないのかなぁ?


聖ちゃんと付き合っていくうちに、霧様のことは忘れられると思っていた。

いずれは聖ちゃんのことも好きになれるって――……。


でも……。

今、私の心を大きく占めているのは、紛れもなく霧様なの……。


無言のまま家まで送ってもらい、玄関の前で聖ちゃんと別れる。


そこでも会話は交わされることなく、小さく手を振ると聖ちゃんはそのまま去っていった。


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