ご主人様に首ったけ!
小さい子をあやすように、優しく露の髪を梳きながら頭を撫でると露はさらに強く泣きじゃくっていたけど、決して僕の胸にもたれてくる事はなくて……。


その代わり、ひとしきり泣き終えると、


「霧様、今までありがとうございました。
すごく、すごく楽しかったです……」

「!!」


今まで見た中で、一番儚くも美しい笑顔でそう囁いた。

楽しかったと、そう思ってくれているんだね。


「僕も、露が来てくれてすごく、すごく嬉しかったよ」


心からの本心。

露がいなければ、こんなにも温かい気持ちがあると言う事に気付かなかったと思う。


人を信じること。

人を愛すること。

露に出会って、僕は初めて知ることが出来たんだ。


「それじゃあ、失礼します……」


露はそっと僕から離れると、扉へと向かって歩こうとしてた。


儚くて、今にも壊れてしまいそうな露――……。

もうこの手に抱きしめる事ができないのなら……。


そう思ったとき、頭より先に体が動いていた。

< 327 / 374 >

この作品をシェア

pagetop