ご主人様に首ったけ!
「残念だけど僕は何も――……」


何も知ることはない。

彼にそう告げようとしたとき、ふとある人物のことが思い立った。


露と最後に一緒に帰った日、その人物と会ったことで明らかに露の様子はおかしくなった。

まるで、その人物に対して恐怖心を抱いているかのように……。


そして、ある一つの可能性が生まれた。

しかし、それは――……。


「なんだよ?」

「いや……」


彼の問いに言葉を詰まらせる。

これは、彼に告げるにはあまりにも酷なこと。


「すまない、僕は露に何も聞かされていない。
わざわざ足を運んでくれたのに、力になれなくて悪い」

「いや、俺のほうこそこんな朝っぱらからすみませんでした。
俺、帰ります」

「あ、ひとついいかな」

「え……?」


ソファから立ち上がり、部屋から出て行こうとする彼を呼び止めた。


「君の――……」

「え?」


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