ご主人様に首ったけ!
彼は、目の前に突き立てられた拳を前に言葉を失ってしまったようで、その場を動こうとしない。

今の彼の突きは、空手か……。

なるほど、これを利用して露を脅したということか……。

でも、残念だったね。


「僕はこう見えても武道全般は得意なんだ。
最も、露に話したことはなかったから知らなかっただろうけど」


拳をゆっくりと下ろしながら、彼を一瞥する。

彼もその場に力なくしゃがみこみ、うなだれた。


「あ、そうそう。
僕は脅しなんて好まないから。君の弟に何かを言うつもりはないよ。
ただ、この先どうするかは君次第だ。全てを露見するか、隠したままにするか……」


それだけ言うと、僕は彼の前から去った。


――あえて、露のことは何も言わなかった。

あの状況で、露に謝罪を求めるよう言えばきっと彼は動いてくれただろう。

でも、彼が謝罪をしたところで露が僕の元に戻ってきてくれるのか……。

それが怖かった。


露……。

今、君は何をしている?


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