激愛パラドックス
「翔、もう7時ですよ」
その言葉に振り返ると、ユキが寂しそうな顔をした。
「…門限?」
「いえ、土曜ワイド劇場を観なくちゃいけないんです…」
「はっ?」
ユキの口から似つかわしくない意外な言葉に、俺は固まってしまった。
「今日は、大好きな浅見彦シリーズなんで、絶対に観たいんです!翔とは…もっと一緒に居たいんですけど…このシリーズはっ」
「あっ、じゃあ家で観てくか?」
四の五の言うユキに痺れを切らせて提案する。
「い、良いんですか?」
「良いから言ってんだろ」
「いや…でも…その」
「なに?」
「あの、男の人の部屋行くのって、雅也の家以外なくって…」
…………。
「あのっ…」
黙り込んだ俺に、ユキは不安げに声を掛けてくる。
「お前さ、俺に喧嘩売ってんの?」
「え?」
俺の異様な剣幕に、ユキは怯えて瞬きをするだけ。