激愛パラドックス

呆れながら、他人事のようにニコニコ笑っている篤史に言う。



「…つーか、ファンクラブ退会しとけよ。男がんなもん入るなよ」


「えぇ〜?無理だよ、俺発起人だしっ」



「…はぁ!?」



ヤバイ、こいつマジキモい…。



「いや、そこ引くとこじゃないし、笑うとこ」



「笑えねぇよ」



席を立つ俺を、篤史は黙って見送る。


教室から出て、廊下の窓の外にある散ってしまった桜の木を眺めていると、1か月前のあの時から忘れることのできない、かわいい物体のことを思い出した。





〜1ヶ月前〜

「悪いな、じゃあ新入生の案内頼むよ」



2年の三学期の終わりに、春やんに勝手に任命された新入生の案内係。



「貸しだからな、春やん」

「…うっ、分かったよ」


引き攣る笑顔で俺にバッチを預けると、春やんは体育館に移動した。




職員室の窓から見える桜を見て、溜め息をつく。


「面倒くせぇ…」



この時の俺は、数時間後に恋に堕ちるだなんて、これっぽっちも思っていなかった。





< 16 / 118 >

この作品をシェア

pagetop