激愛パラドックス
呆れながら、他人事のようにニコニコ笑っている篤史に言う。
「…つーか、ファンクラブ退会しとけよ。男がんなもん入るなよ」
「えぇ〜?無理だよ、俺発起人だしっ」
「…はぁ!?」
ヤバイ、こいつマジキモい…。
「いや、そこ引くとこじゃないし、笑うとこ」
「笑えねぇよ」
席を立つ俺を、篤史は黙って見送る。
教室から出て、廊下の窓の外にある散ってしまった桜の木を眺めていると、1か月前のあの時から忘れることのできない、かわいい物体のことを思い出した。
〜1ヶ月前〜
「悪いな、じゃあ新入生の案内頼むよ」
2年の三学期の終わりに、春やんに勝手に任命された新入生の案内係。
「貸しだからな、春やん」
「…うっ、分かったよ」
引き攣る笑顔で俺にバッチを預けると、春やんは体育館に移動した。
職員室の窓から見える桜を見て、溜め息をつく。
「面倒くせぇ…」
この時の俺は、数時間後に恋に堕ちるだなんて、これっぽっちも思っていなかった。