激愛パラドックス
なんて最悪な日なんだ。
ううん、もとはといえば早起きしなかった自分が悪いんだけどさ…。
入学式だから気合いを入れてメイクや髪型に時間をかけていたら、気付くと家を出なきゃいけない時間より30分以上も経っていて……。
「…どこにあるの?」
呟くように言う私の声が、虚しく響く。
その時、
「なにやってんの?」
と、低くて太い声が頭上から降ってきた。
「…コンタクトを落としてしまって…」
消えるような声で話すと、何だか泣きそうになってしまった。
こんなとこ見られるなんて、恥ずかしいよぉ…。
「新入生だよな?」
コクりと頷き、顔にかかった髪を、耳にかける。
「探すの手伝おうか?どっちみち、入学式遅刻だけど」
「いっ、良いんですか?」
天の助け!
大袈裟かもしれないけど、今の私はそう思ってしまう。
「あぁ、見えないんだろ?」
「…はい、両方失くなっちゃったんで」
腰を下ろして頭を下げる男の人に声をかける。
「…あの、レンズに黒く縁取りがあるんで…」
「分かった」