激愛パラドックス
「篤史先輩が言ってました。“翔は昔から欲が無い”って。だから、好きになっても直ぐに諦めるんじゃないですか?」
アイツ、そんなことまで雅也に吹き込んでたのかよ。
ぞくぞくと集まる部員の中に、春やんを見つけた。
のそっと立ち上がって、篤史もいるグラウンドの端に移動する。
「…まぁ、それだけが理由じゃないんだけどな」
俺が直ぐに諦めてしまう根っこの部分は、小学校から同じ篤史も、きっと知らない。
「なにか言いました?」
ボソッと呟いた声が聞こえなかったからか、雅也が聞き返してくる。
「なんでもねーよ」
何気なく篤史の方を見ると、頭の上で両手を使って○を作っている。
「何が○なんすかね?」
「さぁ?」
首を傾ける俺たちに、ムッとしながら近づいてくる篤史。
「なんでわかんないかなぁ?今のは、タマちゃんに、今度の試合は一人じゃ大変だし助っ人頼むから、ヨロシクねって言ってOKが出たってサインだったんだけどっ!」
「「全然分かんねーっ」すよ!」
二人のツッコミに、今度はビックリした篤史の顔が可笑しくて、雅也と顔を見合わせて笑った。