激愛パラドックス
何故か強い口調のユキに驚きながら周囲を見回すと、登校してきた生徒が俺たちをチラチラと見ていた。


「ちょっと来いよ」


それから逃げるように、空き教室にユキを入れる。


「…ここ、なんの教室ですか?」



少し怯えたユキから離れて椅子を引いて座る。


「使われてない教室。それより、なんでそんなに怒ってんだよ」


朝だというのに、カーテンが閉まっていて教室の中は薄暗い。


「だって、せっかく頑張って告白したのに、そんなの酷いと言うか…」


「頼んでねーし」


告られて、うれしいなんて思ったことなんかない。


「そうかもしれないんですけど…」



「ユキは、告って来たヤツにお礼とか言うタイプなんだ?」


「…はい」


マジかよっ!冗談のつもりだったんだけど…。


「ははっ。そりゃスゲェな、真似出来ねぇよ」


ドコまでお人好しなんだ。



「そうですか?」


「そうですよ」





口調を真似する俺に、ユキがクスクスと笑った後、少しの間沈黙が漂う。



その沈黙は決してイヤなものじゃなくて、どこか居心地が良く感じて、あえて何も言わなかった。


< 56 / 118 >

この作品をシェア

pagetop