激愛パラドックス
腕で目を隠しながら、口を開く。
「ユキだよ、バーカ」
ずっと、ユキのことしか頭になかった。
勉強なんて全然進まねーし、授業だってほとんど聞いてねーよ、チクショー。
「…でも、もうダメだな。アイツ、泣かせた…」
「泣かせちゃった理由は、本人に言えば?」
可笑しそうな言い方にムッとしながら腕を離すと、篤史は何故か病室の扉をゆっくりと開けた。
そこにいたのは、紛れもなく顔を真っ赤にして立っているユキだった。
「…なっ!」
ユキと篤史の顔を交互に見て、この状況を飲み込む努力をする。
「ビックリした?ユキちゃん呼ぶの大変だったんだよ〜」
そう言って篤史はユキの両肩を抱いて、俺の側まで連れてくる。
はっ!今の話し、聞かれてたのか?
恐る恐るユキの顔を覗くと、俺の視線に気付いたユキは照れたように微笑んだ。
…マジかよ。
「センパイが危篤だって篤史センパイから雅也経由で電話が来て…」
「誰が危篤だよ」
「え〜?ここんとこずっと死人みたいだったじゃん?」