それぞれに、さよならを。
「うん、ありがと」
そう言ってへらりと笑うのは、変質者。
「じゃ、私失礼します」
(やっとこの空間から、抜け出せる)
何だか疲れた私は、紙に伸びる手を視線の端に捕らえながらゆっくりと立ち上がる。
目の前のプリンにスプーンを刺す所だった恐い人と一瞬だけ目が合った。
(…まだ食べるの、)
「…ね、美月ちゃん。」
甘く、響くその声は独特で耳に残る。
「………、」
黙ったまま、その人に視線を移すと今までとは違う、瞳の色。
鋭く光るような、捕食者の瞳。
「今日からよろしくね」
にやり、口元に弧を描く。
半分に折り畳まれた白い紙。男の人にしては白く、細い指がそれをゆっくりと開いた。
"入部願書"
"サークル名:natural high"
「これ、自筆のサインないと駄目だったから、助かっちゃった」
そう言って先程とは違う、にこにこと笑みを漏らす。
「……さい、てー」
ついていけない状況に絞り出した声は、我ながら情けない声色だった。