それぞれに、さよならを。


ちらりと盗み見たその顔はひどく綺麗で、薄く口元に弧を描いていた。


「…もう、来ませんから。」


何となく居心地が悪くて。そう呟き、立ち上がる。


…と、捕まれた左手首。


「…俺、橘 漣。経済学部の2年。…君さ、サークルに興味ない?」


人手が足りなくてさ、そう苦笑するその人は左手を掴んだまま「明日、返事聞かせてね」そう言って、笑った。


「…サークルとか、興味ないんで」


(…私はただ、地味に、大学生活を送りたいの)


放れた手首を右手で掴んで、そう言い放つ。


「うん、でも、返事は明日貰うね?"藤岡 美月"ちゃん」

(…だから"もう来ない"って言ったじゃん、)


にこり、笑うその人に踵を返して足早にその場を後にした。


違和感に気が付くのは、10秒後。


(…私、あの人に…名前、言った…?)
< 4 / 21 >

この作品をシェア

pagetop