それぞれに、さよならを。
ちらりと盗み見たその顔はひどく綺麗で、薄く口元に弧を描いていた。
「…もう、来ませんから。」
何となく居心地が悪くて。そう呟き、立ち上がる。
…と、捕まれた左手首。
「…俺、橘 漣。経済学部の2年。…君さ、サークルに興味ない?」
人手が足りなくてさ、そう苦笑するその人は左手を掴んだまま「明日、返事聞かせてね」そう言って、笑った。
「…サークルとか、興味ないんで」
(…私はただ、地味に、大学生活を送りたいの)
放れた手首を右手で掴んで、そう言い放つ。
「うん、でも、返事は明日貰うね?"藤岡 美月"ちゃん」
(…だから"もう来ない"って言ったじゃん、)
にこり、笑うその人に踵を返して足早にその場を後にした。
違和感に気が付くのは、10秒後。
(…私、あの人に…名前、言った…?)