それぞれに、さよならを。


―――――――…



(…それにしても、なんて言ったっけ…)



昼休みに会った、不思議なあの人を思い浮かべる。



全体的に色素の薄い脳裏に浮かんだその人は、猫の様な印象だった。



(…本当、不審者でしょ。あんなの)



スタスタと歩くそこは大学から割と近い、アパートへの道のり。



長い階段を上って、疲労感漂う足を動かす。



"315"と書かれたそこが、私の部屋だ。



部屋へ入ると我ながら殺風景なそこ。



重たい荷物を下ろして煩わしい眼鏡をテーブルに置いた。



「…眼鏡ってずっとしてると疲れる…」



眉間を押さえながら呟いた。



ベッドに身体を埋めて、何もない天井を仰ぐ。



(…だいたい、返事って…)



サークルに入るなんて、そんな意味は皆無だ。



(…でもなー、)



「何で、名前知ってたんだろ…」



返ってくる言葉など無い疑問は、静かな空間に消えた。
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