君が僕の名を呼ぶから
「涼子。ちょっと散歩にでも行かない?」
「……うん。」
僕は、それから自室にいない時は涼子といることが多くなっていった。
同じチームだったというのもあるし、涼子が僕に心を許してくれたというのも大きかった。
「わぁ。コスモスが綺麗だねぇ。」
季節は秋。コスモスが一面に咲く野原に来ていた。
「……うん、綺麗だね。」
涼子はそう言うと、濃いピンク色のコスモスを一輪手にとった。
「……ねぇ、聡史くん。」
「……なぁに?」
僕は、涼子の次の言葉を待った。
随分長い間、言葉がなかったけれど、辛抱強く待った。
「……やっぱり、何でもない。」
「えぇ、何それ。」
……涼子はこの時から重たいものを一人で背負い、そして僕にも気を遣っていた。
この話の続きを聞くのは、もう少し後のことだった。
「……少し寒くなっちゃった。手、繋いでもいい?」
「うん、いいよ。」
涼子の手が、氷のように冷たかったのを覚えている。