君が僕の名を呼ぶから
僕は、それからその気持ちを持ち続けたまま、涼子とたくさんの季節を過ごしていった。



涼子が心から笑ってくれることはなかったが、それでも僕は幸せだった。





「聡史くん。」




「ん?」



僕たちは5年生になった。その年の夏のある日、涼子が僕の部屋にやってきた。




拓真くんはちょうど出かけていて、部屋にいない時だった。




「今、大丈夫?」



「うん。」




その日は、蝉の鳴き声が一段とやかましく、とても暑い日だったのを覚えている。



「暑くない?クーラーの温度下げよっか?」



「ううん。大丈夫。」




涼子は僕の質問にそう答えると、僕のベッドに安心したような表情で腰掛けた。




涼子はしばらく言葉を発さず、ただ黙って窓の外を眺めていた。




僕にはその沈黙を破る力と権利があったかもしれないが、涼子に全てまかせようと思った。




「……私の話、聞いてくれる?」




「うん。」




涼子が消え行きそうなこえで僕にそう言ったころには、夕方になりかけていた。
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