君が僕の名を呼ぶから
「私、親の顔って知らないんだ。」




「……え?」




涼子が話し始めたのは自らの過去だった。




僕は、驚きながらも涼子の話に耳を傾けた。




「……私ね、赤ちゃんだった頃に捨てられて、この施設の前に置き去りにされてたんだって。で、施設の人が私を育ててくれたの。」




……涼子は少し涙を浮かべながら話をしている。




「……その事実を知った時から、私は心を閉ざすようになった。他の子たちはみんな、お母さんやお父さんに愛されてるのに、どうして私は一人なんだろう、生まれてこないほうがよかったんじゃないかって。まだ、小さかったけど、寂しさからそんなこと考えてた。」




「……涼子。」




僕は、涼子にかけるべき言葉を探したが、小学生の頭でそんなものが見つかるわけもなかった。



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