君が僕の名を呼ぶから
「じゃあ、バスに乗って。」




もう大学生だから、いちいち座席を決めたりはしない。




隣に座る友だちがいる人は2人で座るし、そうじゃない人は1人で座る。




ただ、それだけのこと。




「……今日は暑くなりそうだね。」




当然のように僕の隣に座ってくれている聡史に、僕はありきたりな言葉を投げ掛ける。




「そうだね。でも、もしかしたらにわか雨が降るかもしれないって天気予報で言ってたよ。だから僕、折りたたみ傘持ってきた。」



そう言って、僕に聡史はカバンの中から折りたたみ傘を取り出して、自慢げに見せた。




「……不思議だね。こんなに晴れてるのに、雨が降るかもしれないなんて。」




……でも、天気と人の心だけは信用ならないのが事実だと思う。




「まぁ、当たらないかもしれないし。予報だから。」



そう言って無邪気に笑う聡史。




僕はその笑顔を見て、少しだけ元気になった気がした。


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