君が僕の名を呼ぶから
「……つばさくん。」
「まきちゃん!どうしたの?」
何だか久しぶりに話すような気がした真希には、いつもの笑顔がなかった。
「……まき、へん?」
「えっ?どうしたの?」
「あのね、さおりちゃんがまきのこと、へんだって。」
……今考えれば、真希は少しずつ知的な遅れが出始めていた。
もちろん、その時の僕にはそんな判断はできない。
「まきちゃんはへんじゃないよ!そんなことをいうこは、ぼくがおこってあげる。」
僕はそう言うと、真希の頭を撫でた。
「ね?だから、またそんなこといわれたら、ぼくにいって!」
「……うん!」
真希が僕の傍で笑顔をなくしたのは、この時と
真希から離れようとした大学進学のときだけ。
この時から、僕が真希の傍を離れるまで、
辛いことや苦しいことがあったはずなのに、真希は
少なくとも僕の前では、笑顔でいてくれた。