君が僕の名を呼ぶから
「……真希はその孝太って人が好きなの?」




我にかえったときにはすでにその質問を真希に投げかけていた。



「うん。好きだよ。」



冷静になれば、真希の口からその答えが返ってくることは予想することができる。



真希の「好き」は決して独占できる「好き」でもなく、



何か特別な意味を持った「好き」でもない。




それになにより、真希には「嫌い」という概念が存在しないように思う。




人を憎んだり、恨んだり、苦手だと思ったり、嫌いだと思ったりする感情は、



真希には相応しくない。




それは、僕のように汚れてしまった人間だけが抱く感情だ。




真希は、広い意味の「好き」という感情を持ち合わせているだけだったし、本来はそのくらい人の感情はシンプルなほうが上手くいくのかもしれない。



「……そっか。」



僕は、その時怒りというよりも、悲しみが込み上げてきたことをよく覚えている。



人が人を好きになるのは、自然に与えられた人の権利であるし、それを伝えようとするのも自然な流れであることはよく分かっている。



でも、心の小さかった僕はなかなかその事実を納得できずにいた。




「……読んでいい?」



「うん。真希、よめないから、翼くんによんでもらおうと思ってたの。」



……真希の無垢さは時々残酷でもあった。
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