極上お姫様生活【完】
真っ暗な闇の中で。心から忘れ去りたいと思っているあの人が、執拗にあたしを追い回す。
逃げても、逃げても、
気が付くとすぐ傍でニヤニヤと笑っている。
嫌だ…怖い…触らないで…
『俺はいつだってお前を視てるから。どこに隠れたって無駄なんだよ?』
「っ、ぅあ…!」
軽い悲鳴を上げながら現実の世界に戻る。
座席から転げ落ちるのを八木原君が止めてくれた。
「蒼空…!」
「っ、…っっ」
上手く呼吸が出来なくて、目の前が涙で霞む。何これ…何これ……。
「蒼空、落ち着け!ゆっくりでいいから深呼吸しろ」
抱き抱えるようにして支えてくれる八木原君の声が、やたら遠くに聞こえる。
ガクガクと身体が震え、涙も止まらない。おまけに息もままならない。
その時だった。
唇に温かいものが触れたのは。