ほととぎす
奈実江を探す赤ん坊
 多摩緒が嬰児籠に手を突っ込んで、ゆう太の身体を両手で持つと中から出して、畳の上に降ろしゆう太に這い這いを教え出した。
「歩かれんごと成ったらいかんけん、ここから出しちゃろう。」
「そらっ、あら、重いッ・・」
 畳の上に赤ん坊のゆう太を降ろすと、さっさとその場から去っていったが、多磨緒はそのまま洗濯場に行ってゆう太のオシメを洗い出した。

悠太は、畳の上で四つんばいになって、何か掴まるとこがないかと、アッチやコッチを探していた。嬰児籠の中に居る時は、簡単につかまり立ちが出来たのに、外に出されると這い這いをしていなければいけない。悠太が探していたのは、ただ掴まる物だけではなかった。

(あの、優しい声の人はどこに居るのだろう、やっと外に出たのだから・・・探そう・・・)

 悠太が探しているのは、養母となる多磨緒かそれとも祖母のリュウか、まだ悠太は姉兄の
二人は理解できていないから他の家人の筈はなかった。

 そこにリュウが現われて、悠太を抱き抱えるとサッサと表に出て行った。
リュウが玄関を出ると、農家らしい広い庭の片隅にある赤いレンガ塀で造った納屋の向かっ
て歩き出した、赤レンガの納屋から動物らしい気配があった。
(ゴトゴト、ガタン)
「メェーン、メェーン」
 リュウは赤レンガの納屋に近ずくと、悠太に聞かせようと動物が入っている囲いの前に立っ
て、中を覗きこんだ。赤いレンガ造りの納屋には、出入り口には戸は取り付けては無く、また屋根の瓦は赤いコンクリ-トの瓦葺きで、赤いレンガ塀と屋根の間は1メ-トル程空いていて泥壁にもなっていなかった。その中に戸板のような物で作った、簡単な囲いの家畜の飼育場所を設けてあった。
「ホーラ、見てごらん。なんが居るね?」
「これは、山羊って言うとよ!」

 中にいた動物は、吉治が貰ってきた山羊が放されていたが、しきりに外に出ようと戸板に向かって体をぶつけたり、前足を板の隙間や桟のようなところに掛けて、大きな音をたてていた。
悠太は思った、リュウに抱かれて年寄り臭い匂いに息が出来ない、まだ囲いに入っている山羊のほうが猫のミケの匂いと同じ獣の匂いで、嫌ではなかった。
 悠太は木の囲いに手を掛けて、もっと山羊の匂いを嗅ごうとリュウの手から逃れようとした。
   

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