ほととぎす
その頃村田吉治は、役場行って届を済まそうとしていた。
「村田吉治さん」
「はい、戸籍の方はできましたか?」
「出生届の方はよろしかとですが、戸籍の方は?」
「それは、母方でなく父方の方にしてください」
「それではこっちの届書類に名前と本籍地を記入してください」

もう奈実江から、赤ん坊を取り上げる準備は着々と進められていた
吉治は役場を出て、その足である農家の家に行き山羊を貰う約束をした。
「ごめんください、先日お伺いした村田ですが」
「あら、これは又、山羊の事でっしゃろう?」
「お父さん、村田さんが又こらっさったよ」
「村田さん、ひとまず山羊ば見てみるね。」
農家の主人は山羊を見ながら、吉治に種付けが上手くいかず出産予定が大幅に遅れる
事を話すと、こう切り出した。
「村田さんが来た時は5ヶ月前やったバッテン。」
山羊の妊娠期間は5ヶ月であり、急いで種付けしても牛のように手を突っ込まれない為、
3週間目にまた再度発情するかで、山羊の受精は確認するため。
また発情を確認したのち、受精が出来なかったので再度種付けした事を農家の主人は言
った。
「色々手間取ったばってん、2回目で受精したとたい。」
「そげんでしたか、それは無理を言うて御迷惑じゃったやろうか?」
「イヤー、こっちも銭がいるけん、お互い様ですたい」
農家の主人は、吉治の問いかけに答えながら、自分の子供を見て言った。
「この子も今年は小学1年生に上がるけん、色々物入りでくさ。」

吉治はそのあと農家を出て家路に向かった。

吉治の家では、奈実江に村田の赤子ができた事で随分大変だった。
ことに吉治の妻の多摩緒に取っては、義父、義母、に小姑が3人それに出戻り義姉親子
3人もいて大家族の上に吉治と多摩緒には二人の子供もいたのだ。
大変な家に嫁いできて、それに吉治が外に子供を作ったのだから。
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