ほととぎす
その頃吉治の家では、吉治の父市蔵が牛のせり市場で新しい牛を買ってきていた。
[モ-モ-]
「ドウ、ドウ、こっちへ来い。ここがオマエの家だ」
「これナア、今度こうてきた牛は、どれどれ、よか目ばしとるなあ。」
「青く澄んで、こげな目をした牛は始めてバイ」
「よか牛たい、この毛並み場見てんやい、]
[栗毛が艶々して、こうして見れば虹色に見えるぞ。」
市蔵が牛の世話をしている所へ、吉治の母リョウがやってきて牛の品定めをしている。
「名前はなんて言うとなあ」「、目の青かケン、アオにしない。」
「アオは馬の名前やろう、バッテン金賞の牛やから似合うかも知れん」
「何ネ、金賞ね、ヤッパリ値段が高そうな牛たいね」
「も-も-」
「ほれ!牛の後ろから触らんと!触る時は前からさわらな!」
リョウが牛の背中を擦ろうとしたら牛が激しく動いた、牛に見えない位置から触ると警戒心が
強い牛は、頭を激しく揺らして身体を横に振った。

その時、吉治の妻多摩緒が畑仕事から帰ってきた、肩に鍬をかけて頭には笠をかぶって
その下に手拭いを姉さんかぶりにしていた。服はかすりの着物に、モンペも同じ柄で足は
地下足袋を履いていた。
「新しか牛ですか?」
「どれ、顔ば見せてん」
「モオー」
「これは良か目ばしとう、透き通るような青い目が、時おり虹色になる。」
「足もしっかりして、毛の艶も椿油をぬったごと光っ取うばい。」
多摩緒の言葉に、市蔵が答えるように話し出した。
「判るなぁ、金賞のこの牛のよさは、それだけじゃなかと。」
「前足のつけ根の肉の盛り上がりと、この面構えが一番よかたい。」

多摩緒は牛の話しを聞くと、鍬を納屋にしまって足を洗いに井戸のほうに行った。

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