ほととぎす
吉治と奈実江と高幸の兄妹は幼なじみで、子供の頃から共に遊んだ中だった、吉治が旧制
中学を出て全寮制の旧制高校に進んだ為、卒業するまでは帰ってこなかった、そして第2次
大戦が始まっていたので吉治は卒業と同時に軍部に徴収された。
奈実江と吉治が再会したのは、戦争が終わって数年たってからだ、奈実江は親戚の田舎の
家に疎開しており、実家に戻るにも兄の高幸が信子を嫁にもらって直ぐ子供が出来たので
奈実江は実家に戻る機会が失っていた。そんな時に二人は再会して、戦争を生き延びた事
に喜び男と女の間違いが起きた。


奈実江が山名の家の玄関を出て表通りを出てから、村田の家から遠くから見えていて、
多摩緒はそれを見ていた、それは山名の家から赤ん坊の泣き声が、昨日の夜聞こえてきた
から奈実江が来ていた事で想像はついたはずだ。
表通りと言っても、幅が3メートルもなく自動車が一台通ればイッパイの幅の道だった。
「ホラ、ホーラ、どうしたの、眠いのかい?」
「ウギァ、キャッ、ウブブウブブ・・・」
「アタシに抱かれると、よく眠るね、ヨシタカはいい子だよ」
奈実江は赤ん坊が眠ってしまっても、最後の親子の会話をむさぼるように話した。道程は
500メートル程しかないので時間はすぐ過ぎてしまうので、奈実江は泣きそうな顔をして懸命
に話しかけている。
そうしないと涙が出てきてしまう、相手の多摩緒には泣き顔を見せたくなかった。
そんな事を知っているかのように、赤ん坊は目を覚まし懸命に奈実江の顔を見ている。まだ
目も良く見えてはいないはずなのに、大きく目を見開いて奈実江の顔を見ているようだった。
「ヨシタカ、見えるのかい、母さんの顔がみえるのかい?」
その時一瞬、奈実江の顔に反応した赤ん坊だった、それは最初に見た産んでくれた母親の
顔で、それが最後になる、母親奈実江の顔だった。赤ん坊はまん丸にしたマナコを一心に
奈実江を見ていた。
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