バタフライナイフの親指姫
 あたしがいつものように、気怠そうにベッドに転がっている灰色の娘に食事を運んで行くと、灰色の娘は珍しく、怠そうに起き上がった。

 ―ねえ、王様があんたを御所望らしいわ。

 ―王様って誰。

 灰色の娘は紅を刷いた唇でパンを食いちぎりながら、王様は王様よ、と、わからないことを言う。

 ―そんなわけで、出てってもらうわ。

 別れは思いの外あっさりと来たけれど、驚くべきことじゃなかった。

 あたしが笑顔で頷くのを、灰色の娘は気まずそうに見ていた。

 仕方ないのよ、あたしまともじゃないんだから。

 ―御所望って、あたしどうしたらいい?いつもあんたがやっているみたいに、するの?それとも、バタフライナイフでぐっさり?

 灰色の娘は高い笑い声をあげて、あんたってやっぱり変、と叫んだ。

 ―そうねえ、まあ、あたしみたいにやってみてもいいんじゃないの?やれそうだったらぐっさりでもいいけど。

 あたしは、わかったわ、と頷いて、手を振って灰色の娘の部屋を出た。

 灰色の娘は慌てて走って来て、雪が降ってるんだからとあたしにコートを被せた。やっぱり優しい娘だった。


 あたしは、さく、さく、さく、と、なかなか綺麗な雪を踏み分けて、王様のところに向かった。

 灰色の娘のコートのフードをすっぽり被って、ポケットのバタフライナイフを指先で弄びながら。

 王様は、それは王様らしい住家に住んでいたので、あたしはそこまで迷うこともなく辿り着いた。

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