黒猫~special cat~
「ホントは全部、琉夏に聞きてぇ」
本当に不思議だな、と僕は悠長にそんな事を考える。
「でも、そんな余裕はどこにもないし、
今は…焦ってんだ」
こんなに碧が喋ったことなんかあったかな…、多分、ない。
でも、そんな事よりもっと不思議なんだ
「……泉?」
「…?」
泉が自らアクションを起こすことも
総が警戒しないで立ち尽くすことも
碧があんなにたくさん、喋ることも
全部、全部、不思議で仕方ないけど……
「………港は?」
いつも煩い港が一言も、言葉を放たないコトが一番不思議。
ふと、周りを見回してみると…港がいない
今、琉羽の話を聞かなきゃいけないのも分かってる
けど…港がいないのは変、だから。
「……港、だと?」
港の名前を口にした途端、琉羽が目の色を変えた。
琉羽は肩をわなわなと震わせて、後悔に満ちた顔をする
…港が、どうしたの?
「まさか、稲田 港か……?」
無言で頷くと、琉羽は笑った。
それは自嘲を意味するものだとは、僕たちはまだ理解できなかった
「…琉夏は、初めから知っていて…」
琉羽が切なそうに呟いた言葉は
誰の耳にも届くコトの無く、
風の様に、霞んで消えていった―――――