妖鬼幽伝






咄嗟に目を瞑り頭を抱え込んだハツは、ふとどこにも痛みを感じないことに気づいた。


不思議に思いながらそろりと目を開けて見れば、ハツの前にはコンクリートの壁が出来ていた。







「え、壁!?」



「阿呆俺じゃ」







何故突然こんな所に壁が!?と驚いていたハツの耳に銀零の声が聞こえたかと思うと、壁はドロンと音をたて消えた。


代わりにハツの前には煙の中から銀零が現れた。







「銀零!」



「油断しおって。一気に詠唱してしまえば良かったものを」







ギロン、と睨みつけながら言った銀零に縮こまるハツは、素直に謝った。







「謝るヒマがあるならば、とっととあやつを封印せい」



「う、うん」







ハツは空中で縛り縄から逃げ出そうともがく空凪を見た。


長くうねった黒髪から時折覗く目は真っ赤だった。


それを見てハツはぞっと背筋に何かが駆け上がるような感じがしたが、首を振るとサッと妖鬼幽伝を構えた。







「゙我の願は汝の束縛、汝に願うは我の僕゙」









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