キミノトナリ(短編)
キミノトナリ 2
いつもの川縁に座る、老人の後ろ姿に少女は足を止めた。

そのまま一向に動こうとしない少女に、老人はゆっくりと振り返る。

泣き腫らした目に、少し驚いたようだった。

「どうかしたのかい?」

少女は立ち尽くしたままはらはらと涙を流した。

落ち着かせて座るように促してみれば、少女は素直に隣りに座る。

「今日…ね。友達が自殺したの」

は、と老人が息を飲んだのが分かった。

「すぐに病院に運ばれて、命に別状はないって」

わずかに力が緩む。

「その子ね、彼氏とこの間別れたの」

「…まさか、それが原因かい?」

「…分からない。でも」

それしか思いあたらないのだと、少女は俯いた。

「どうしてそんなに簡単に死のうとするの?」

老人は黙って少女の言葉を聞く。

今は吐き出すしかないのだと、理解していた。

「誰かに相談…できなかったのかなぁッ」

体育座りのように顔を伏せる少女の声は震えている。

「…ふむ、人とは複雑なものだ」

老人の声が、静かに川面に反射した。

「私の友人にも、似たような奴がいた。彼は、元々とても心が弱くてね」

頻繁に鬱のようになって、何もできない己に苦しんでいた。

回りの人間を見て鬱になり、自分を振り返って鬱になる。

繰り返す悪循環。

「そして、彼は…自ら命を絶った。剃刀で手首を切ってね」

今度は少女が息を飲んだ。

「…私も、彼の相談には乗れなかった。いや、乗ったが彼の望む言葉をかけてやれなかった」

「望む言葉?」

不思議そうに首を傾げた少女に、老人は安心させるように微笑む。

「頑張れ、や大丈夫。そういった言葉はね、励ますことは多いけれど…逆に相手を傷付けてしまうこともある」

時に、それは導火線となって、思わぬところで火が付いたりする。

「特にね、心が弱い人。弱っている人に対しての言葉は…わずかでも否定が入った一言一言がナイフとなるんだ」

悲しいことだがね、と老人は小さく口許を歪めた。
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