キミノトナリ(短編)
キミノトナリ 3
柔らかな風の中、少女はぷうと頬を膨らませた。
「また先にいる」
振り返った老人は笑みを浮かべる。
「年寄りは暇だからね」
その言葉を皮きりに、少女はそっと腰を下ろした。
「それで、今日はどんな話だい?」
「今日はね、宿題が出たの」
「ほう」
面白そうに笑った老人に、少女は困ったような顔をした。
「でも、思い付かなくて」
唸る少女の姿が微笑ましい。
「どんな宿題なんだい?」
「作文。テーマは『将来』」
なるほどと呟いた老人は少女の隣りで小さく呟く。
「そればかりは、我々大人は見守ることしかできないなあ」
「…うう」
恨めしげな少女の顔に、老人は思わず吹き出した。
頬を膨らませる少女に静かに問い掛けてみる。
「では、一緒に考えてみようか?」
何になりたいか。
いきなり言われても大抵は悩む。
特にまだ追い詰められていない中高生なら尚更だ。
「まずは自分が得意なものを探すんだ」
「得意なもの?」
少女が首を傾げ、老人は頷く。
「好きなこと、良くやることでもいい。とにかく目の前にある、手の届く範囲のものに挑戦するんだ」
始めてやることや苦手だと思っていたこと。
案外仕事にしたら天職だったということは多い。
「あとは、そうだな。…大人に仕事の話を聞いてみるのもいい」
うー、と唸る少女の姿が見えた。