Colorless Life
 ふと、昨日墓地で、すれ違った人のことを思い出した。
 ・・・せっかくだから聞いてみよう・・・。

 「あ、あの・・・真田君・・?」
 真田君はびくっとして、ゆっくり振り返った。
 「ん?何?」
 「えっと・・・昨日、柏木町の墓地にいなかった・・・?」
 真田君は少し考えたような顔をして答えた。
 「あぁ、うん。少し用があってね・・・。」
 「やっぱそっか。真田君じゃないかなって思って一応声かけたんだよ。聞こえなかったみたいで行っちゃったから、ちょっと不安だったけど合っててよかった。」
 「ははは・・・、ごめん、気がつかなかった・・・。」
 「ううん、気にしないで・・・。」

 やっぱり、あれは真田君だったんだ・・・。
 でも、何であんな場所にいたんだろう・・・・。
 誰かのお墓参り・・・?しかないよね・・・?

 「私の家ね、あの石段の上のお寺なの。」
 わざわざこんなこと言わなくてもよかった、と後で思った。

 でも、真田君は予想以上にそのことに反応した。
 「えっ!?」
 真田君はすごく驚いているみたいだった。
 「そ、そうなんだ・・・・。」
 「う、うん・・。正確にはおじさんのところにお世話になってるんだけどね。」
 「へぇ~・・・・。そっか・・・。」
 真田君は複雑な表情のまま、勉強机に視線を落とした。

 「あっ、勉強邪魔しちゃってごめんね。それじゃあ頑張って。」
 悲しげな後姿の真田君を残して、教室を出た。

 ・・・不思議な人・・・。
 この1ヶ月の間に真田君に一体何があったのかが妙に気になってきた。
 とはいえ、それを考えるために必要なほど、私は真田君のことを知らなかった。
 結局、同じことが何度も繰り返される程度に終わってしまう。

 堂々巡りをしているうちに、道場に着いた。
 深呼吸して気持ちを入れ替えた。
 「すぅ~、はぁ~・・・・・。ふぅ・・。だめだめ!今は剣道剣道!」
 独り言をつぶやいて、道場に入った。

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