Colorless Life
 「はい。」
 私の前にいた男の子が手を上げた。
 「根岸君。どうぞ。」
 根岸君は立ち上がった。みんなが根岸君を見ていた。

 「俺は死刑制度には反対です。人の命というものは人権の中で最も重要な権利です。たとえ犯罪を犯した者であっても、その命は最大限尊重されなければならないと思います。」
 根岸君は座った。

 ・・・・・・・。

 うつむき加減でチョークを握ったまま立っていた。
 私が動かなかったから、相田君が黒板に今の意見を書いてくれた。

 「なるほど。他にはどうですか?」
 ・・・・・・・。
 根岸君に続いて数人の人が手を上げた。
 「僕も反対です。命を奪わなくても別の方法で同じ目的を果たすことができると思います。」
 「私も反対です。たとえ犯罪者であっても更正できる以上その可能性を奪ってはいけないと思います。」
 「殺さずに生きて償わせることのほうが大切なことなんじゃないでしょうか。」
 「死刑って廃止することが世界的な流れになっているんですよね。日本だけ残しておくのはそういう流れから取り残されることになってしまって、好ましくないと思います。」
 「被害者の遺族の方も犯人が死んだところで、その心の傷は癒されることはないと思います。」

 心臓の鼓動はますます早くなっていった・・・。
 左手を握りしめて、黒板に出た意見を書いていた。

 「結構色々でましたね。他にはどうですか?死刑制度に賛成の人はいませんか?」

 ・・・・・・!!!
 チョークが折れそうだった・・・。
 そんな聞き方・・・・。ひどいよ・・・・、先生・・・・。

 もう、これ以上書きたくなかった・・・・。
 みんな・・・・、人の気も知らないで・・・・。
 せっかく忘れようとしているのに・・・・、どうしてこんなことしなきゃいけないの・・・・。

 涙が出そうになるのを必死でこらえていた・・・。

 と、その時だった・・・・。
< 117 / 191 >

この作品をシェア

pagetop