Colorless Life
 また少し沈黙があった。体育館からは、相変わらず元気のいい掛け声。

 「あいつのどこが好きなんだ?」
 「えっ・・・。」
 顔を上げると水野君が私を見ていた。私は全てを見透かされてしまいそうな気分になって慌てて目をそらした。
 「え、えっと・・・、笑顔・・・かな・・・。」
 「笑顔?」
 「う、うん・・・。といっても高校では、まだちょっとだけしか見せてくれないんだけどね・・・。でも、私それ以前に見たことあるんだ、彼の笑顔・・・・。キラキラしてて、希望に満ち溢れてて・・・、その笑顔見たらそれだけでみんなが幸せになるような・・・、本当に素敵な笑顔・・・。」
 「はははっ、こりゃ敵わないな。」
 「えっ・・?」
 驚いて水野君をもう1度見た。彼は校舎の白い壁を笑顔で見ていた。

 「敵わない・・・って?」
 「朝倉がそんなうれしそうな顔して、そいつのこと話すからだろ。」
 水野君は私の頭を軽く叩いた。私は気がついたら笑顔になっていた。

 「お前の気持ち、そいつに伝えなくていいのか?」
 「うん・・・、彼が高校でも、あの時のような笑顔を見せてくれるまでは・・・。それに・・・・。」
 「それに?」

 お墓の前で泣く真田君の姿が頭に浮かんできた・・・。
 胸が締め付けられるようで、少し切なくなってうつむいた・・・。

 「・・・・。今の彼の中にいるのは・・・、私じゃないと思うから・・・・。」
 「・・・・?」

 水野君は私の表情から気持ちを察してくれたのか、それ以上の事は聞かなかった。
 「とりあえず、お前の気持ちはよく分かった。勉強の邪魔して悪かったな。」
 「ううん。私の方こそ、話聞いてくれてありがとう。」
 「それじゃあ、またな。」

 水野君は軽く左手を上げて、下駄箱の方へ歩いていった。
 私は水野君が見えなくなるまでその場に立っていた。
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