Colorless Life

　「なんで・・・、その名前・・・。」
　私は黙っていた。彼は少し考えていたけど、すぐに私を見た。

　「見た・・・のか・・・・。」
　「・・・・・。」
　「はははっ、見られちゃったか。でも、朝倉が気にすることじゃないよ。早く帰ろう。」

　そ知らぬ顔をして下駄箱に向かおうとする彼に、私はついに・・・、その言葉を放ってしまった・・・。

　「逃げないで！！」

　彼はビクッとしてその場に立ち尽くした。
　「逃げる・・・ってどういうこと・・・？」
　彼は振り返らず、その場にじっとしていた。

　「真田君は・・・、前を見て生きていない。」
　「・・・・・。」
　「いなくなった人の影に縛られて・・・、前に進めなくなってる。」

　真田君は振り返って、切なげな表情を私に向けた。
　「お、俺は！俺は・・・、縛られてなんか・・・。」
　「いないっていうの？」
　真田君はつらそうだった。
　それでも私はやめるわけにはいかなかった。
　これがきっと彼のためになると思っていたから・・・。
　両手を握り締めて彼をじっと見つめた。

　「毎日のようにお墓に通って、沢木さんの前で悲しそうにしてるあなたが本当にはっきりそう言える？」
　「そ、それは・・・・。」
　「今生きているのは沢木さんじゃなくて、真田君、あなたなんだよ！」
　「・・・・・。」
　「死んだ人は・・・どれだけ願っても・・・どれだけ後悔しても・・・決して戻ってはこな・・・。」
　「分かってるよ！！！そんなことっ！！！！」

　廊下中に彼の声が響き渡った。