Colorless Life
 その日から放課後は朝倉と一緒に勉強することになった。

 といっても、お互い黙々と勉強するだけで特に話すこともなかったし、俺の席は彼女の後ろだったこともあって、彼女に見られながら勉強しているという感覚はなかった。

 そして、ある日の放課後。
 いつものように勉強しようとしていると、彼女は席を立って俺の隣にやってきた。
 何事かと驚く俺に彼女は問題集を開いて見せた。

 「この問題、どうやって考えればいいと思う?」
 英語の不定詞の問題だった。

 「え、えっと、これは行為の主体がずれてる場合の問題だから不定詞の前に“for+人”を入れるんだよ。」

 彼女は真剣に話を聞いていた。
 この表情が、遥とよく一緒に勉強したことを俺に思い出させた。

 「でも、これ“of”だよ?」
 「あー、それは形容詞が人の性質を表してるからね。“kind”とか“careless”みたいに、人の性質を表す形容詞が使われる時は“for”の代わりに“of”を使うってことじゃないかな?」
 「ふむふむ、なるほどね~。じゃあこれは・・・?」

 「ん~と、これは時制がずれてるから不定詞のところを“to do”から・・・。」
 「朝倉~。」

 話の途中で教室の後ろの方から声が聞こえた。振り返って見ると男子が立っていた。顔を見たことがなかったから別のクラスなんだろう。

 「あっ、水野君。」
 そう言うと彼女は立ち上がった。
 「ちょっとごめんね。」
 朝倉はそう言って、水野の方に走っていった。

 朝倉が教室を出て行くのを見送って教科書に視線を落とした。

 どれくらい経っただろう。まだ朝倉は戻ってこなかった。
 水野って奴のことが気になり始めた・・・。

 誰かな・・・。同じ中学の人・・?それとも彼氏・・・?
 気にしても仕方がないか・・・。俺には関係ないんだから・・・。
 ・・・・。関係・・・ない・・よな・・・?

 すると廊下を歩く足音が聞こえた。

 戻ってきたかと思って廊下を見ると、明美が歩いていた。明美は俺に気付いて驚くと、ばつが悪そうな顔をした。
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