【兄と義妹】時空を切り出す光化学
家族。
目の前の家族。
居なくなってしまった家族。
そこに血縁はあらずとも、絆で紡がれた太陽たち。
「美味しそう」
「ケーキなんか撮っても、匂いも味も移せないっての」
時は刻まれる。
置き去りにされた過去たち。
過去は記憶となり、いずれは忘却の彼方へと沈み行く。
「お、今度は鍵盤か」
「これ、お母さんの指……」
「あぁ。ユウカさん、ピアノ上手かったからな」
「……ん」
過去となってしまった人たちに、想いを馳せても、忘却の抱擁は拒めない。
「でも、写真に撮っても音は……」
「いいの……」
「え?」
それでも――
「例え、音が、匂いが、本人たちが居なくても……、思い出は、残せる。温もりなら、残せるから……」
光化学で写し撮った風景なら、温もりとして移せる。
例え、音が、香りが伝わらなくても、本人たちが居なくても、そこに写し出された笑顔の温もりは、伝わるから。
「……そうだな」
だから人は、安心して、忘却の抱擁を受け止める。
失ったものは、そっと、胸の引き出しに、仕舞い入れ。
「けんにぃ……。カメラ、持ってたよね……」
「ん? あぁ、親父の形見な。使い道ないから、保管してるけど……、それがどうかしたか?」
「頂戴。いっぱい、つくる……」
「作るってなにを?」
「残せる思い出……。けんにぃと一緒の」
後からこそばゆくなったりも、するけどな。
「じゃあ……、撮ろ」
「あ、お、おい。俺はまだ一言も―― 」
「聞く意味ない」
「って、おい!」
太陽たちの生きた証拠も、コレに残しておかないとな。
カメラ。
それは温もりを移す、光化学。