仮病に口止め料
だが、本当に(その場限りの彼氏気取りな)心配は必要なかったようだ。
「、ただいま」
「え? 結衣〜? 早くない? 午前授業だっけテスト?」
玄関扉を開けるなり彼女は住人に(色気たっぷり)弱々しい掠れたメロディーでただいまと挨拶をしたし、
人が居た証拠に遠くから声が返ってきた。
顔の雰囲気が声色を操るなら、シュガーボイスとハスキーボイスが耳の中に落ちていく。
「……おじゃまします」
二人きりを不安がる必要がなかったことに俺が少し残念だと感じたのは秘密。
ラブストーリーらしく恋人の看病をしちゃうオレというお約束のシチュエーションに憧れていた可愛い洋平君は、所詮恋心が野心に直結する十代だ。