仮病に口止め料

後ろ髪は耳の上が膨らみ、首の辺でキュっとくびれており、肩下でやや広がるようにカットされている方が、

数年前トレンドだった毛先まで梳かない厚めのヘアスタイルより爽やかに感じられるので、個人的に好きだったりする。


真っ赤な顔をした彼女は肺をたくさん使ってからだの内から息をしているため、

やはり結構な風邪なのではないだろうかと俺は考えていた。


――そして、その予測はすぐに的中することになる。


「、うわっ?!」

ローファーを脱ごうと片足に体重を預けた拍子にバランスを崩したらしく、

弥次郎兵衛みたいに突然こちらに倒れてきた彼女を、咄嗟に抱き留めてしまっていた。


「――――び、痛、……あは、は、田上さ、ん?」

王子様らしくない安定感に欠ける声が玄関先に零れた。

< 127 / 222 >

この作品をシェア

pagetop