仮病に口止め料

ようやく(イケメンな)ダーリンちゃんの存在に気付いたらしく、顔を上げ柔らかく微笑んでくれた。

涙袋が膨らんで蕩けるフェイスは癒し度満点だが、チークについてはきっぱり否定されたため、また少し凹む。


「あれだし。私チーク塗ってないし。赤くなるから塗らないし。ふ、彼氏の癖に知らないんです? あはは」

調子良くお喋りをする唇が忙しく動くのも好きだけれど、それを見る瞬間の自分も(ナルシストに)好きだ。


笑顔は人を元気にする、そんな常套句に納得したのは、同世代のフィギュアスケート選手の影響かもしれない。

滑り終わった時に見せる上を向いた笑顔って、俺は(浅くて軽くて薄っぺらい生温い人生しか歩いていないから)彼らの心なんて分からないけど、

単純に清々しい気持ちになれる。

テレビ画面ごしに笑顔を薬草に嬉しくなる魔法がかけられる不思議。

< 36 / 222 >

この作品をシェア

pagetop