たとえばセカイが沈むとき
彼女の着ていたスプリングコートが、闇のなか力無くはためく。後から何度も夢に出たその映像は、鳥の羽ばたきに似ていた。今でもまぶたにハッキリと焼き付いている。
頭上はるか上を飛び交う自動車のライトが、時折チサトを照らしていた。
わらわらと集まった野次馬。動くことどころか、瞬きも出来ないでいた僕の代わりに、誰かが通報してくれたらしい。緊急車両のサイレンが耳に入った頃、僕は漸くチサトの名を呼んだ。
隣にいた筈のチサトが、急に姿を消したのを、何処かへはぐれたのだろうと思い込みたくて。
目の前の、壊れた人形のように横たわるひとが、チサトだとは思いたくなかった。