たとえばセカイが沈むとき


「ない……」

 何も、なかった。

 事故の痕跡も、何も。

 そんな馬鹿な。日付を間違ったのかと一瞬頭をよぎるが、そんな訳はない。確かに今日だ。

 行き交う人々は、無関心に通り過ぎて行く。当然だ。何もないところで、用事もないのに立ち止まったりする人なんていない。

 ふらふらと不審な動きをする僕を、変な目で見るひとはいたが、それっきり。直ぐに目を前に向け、歩き去ってしまう。

 そこらへんを歩いてる人の腕を、やたらめったら掴み、事故がなかったか片っ端しから訊きたい衝動に駆られる。無駄な行為と当然知りつつも。

 実際はそんな事はせずに、近くに構えている店へ尋ねた。が、店主は首を傾げながら、事故などなかったと言う。

 二、三軒回り、最後の店ではついしつこく訊いてしまったが、どの店のひとも同じ反応だった。

 事故など起きていない、と。


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