たとえばセカイが沈むとき


 一縷の望みをかけ、見知らぬ一軒家を訪ねてみる。非常識な時間帯ではあったが、応えてくれたのは育ちの良さそうな女性の声だった。

 チサトのフルネームを告げ、在宅を問うと、案の定そんな女性は住んでいないという返事だった。ただし、去年まではアパートがあり、その後家を建てたという。

 丁重に礼を言って、僕は考えた。

 起きたばかりである筈の事故が起きておらず、チサトが住んでいたアパートが新築の一軒家になっている。

 という事は、だ。

 ここは『一年前』なのではなく、『現在』のままなのではなかろうか。

 それならば、今事故が起きていない事も、アパートがない事も説明がつく。

 僕は担がれたのだ。


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