たとえばセカイが沈むとき


「ま、待って下さい。なんですって?」

 ぱちぱちと目をしたたきながら、レイがこめかみを掻く。

「一年前に行って来たと、そう仰ったのですか?」

 何を今更、当たり前の事を。頷いた僕を見て詰まった彼。僕はまてよ、と思い直す。過去へ行って帰ってきたのは、彼にしてみれば実験の『成功』だ。そのせいで興奮し、まどろっこしい言い方をしているのだろう。

 同時に合点もいった気がした。

 僕が過去に戻るとレイが確信した、僕との初めての対面は、きっとこの時のものだったのだろう。

 恐らく僕がレイに会いに来る前の時間に、僕は着いたのだ。

「一年前に行って“きた”という事は、あなたはこの時代の方ですか?」

 早く確かめに行きたいのに、レイが食らいつくようにして離れない。

「──いや、待てよ。それじゃおかしい事になる」

 独り言として言い淀んだ彼に、僕は動きが止まった。


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