たとえばセカイが沈むとき
レイには一年前へ戻った理由すら言ってなかったので、まずそこから手短に話した。実際に戻ったら事故がなくなっていたり、家もなかった事などをかいつまんで話すと、徐々にレイの視線が険しくなった。
「──平行世界」
ポツリとレイの口から落とされた言葉に、僕は話を切る。
「あなたはひとつの世界の過去と現在を行き来したのではなく、平行世界へ行ってしまった。この世界も、あなたがいた世界ではないという事です」
「僕がいた世界ではない……?」
ええ、と頷く彼の表情は、真剣そのものだった。いたずらに煽っている様子はない。
「たとえば、あなたが過去へ向かったのが15時ちょうどだとしましょう。15時ちょうど、もしくはそれ以降に戻ってくれば問題はないわけです。しかし14時59分59秒に戻って来てしまったら、過去のあなたがマシン内に存在する事になり、マシン内にはあなたが二人になってしまう」