たとえばセカイが沈むとき

少し前のセカイ



「ならば、もう一度……!」

 フライトしようとタイムマシンに手をかけた僕を、レイの手がやんわりと押しとどめた。

「直さない限り、元の世界に戻れる保証もないんですよ」

「でも、チサトのいない世界よりはマシです!」

 手をよじる僕にレイからの抗いはなく、語気への大きな変化もない。

 彼の言葉を鵜呑みにして、何もせずに指をくわえている訳にはいかないのだ。

 いなくなって初めてわかる大切さ。

 レイは、ひとつ息を吐いた。その動作が僕の中の何かに触れ、衝動がはじける。

「いつ修理が終わるかも、わからないんでしょう? それにこのマシンはあなたの作ったものじゃない。僕は行きます」

 言うだけ言ったら勢いづいた僕は、発進ボタンを押した。


< 35 / 44 >

この作品をシェア

pagetop